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Kate Wolf - 『Green Eyes』

 

ケイト・ウルフというミュージシャンがいた事を知る人は少ないと思います。

彼女は米国のローカル・シーンに長くとどまったアーティストだからです。

音楽家としてのキャリアのスタートは遅くて、27歳を過ぎてからです。

Wildwood Flower(野生の森の花)というバンド名を組んだのは「The Carter Family」意識しての事でしょうか?

 

マイナーのコンサートやアルバム制作を地道に続けて行くそのスタイルは、

地上に降り注いだ雨が地中にしみこみ、地下水となって広がっていくように

いつか誰かの手によってスポットライトが照らされる時がくるかも知れない。

YouTubeに数少ないライブ映像が残っています。彼女は白血病の告知を受けていたと思われます。治療を続けながらの音楽活動を続けていた訳ですが、血液の癌ですので、当時は特別な治療法は無かったのでしょう。どこか遠くを見るような眼差し、なんか達観したような歌いぶり。自分の余命を知っていたんだと思います。だからでしょうか、彼女の歌は心に響いてくるものがあるのです。

ケイト・ウルフの死は1986年12月10日。8ヵ月の闘病を経て、彼女は去った。まだ若い44歳。最後のアルバムがヒットして、メジャーデビュー直前でした。

私生活では、4度の結婚をし29歳の時に歌手への夢を諦め切れず、2人の子供を置いて家を出てしまうなど、ある意味波乱万丈な人生を送りました。

​この曲「Green Eyes」も恋愛を歌った歌詞ですが、とても複雑な心理が織り込まれていて分かりにくいです。恋多き彼女の曲らしいと思います。

エミルー・ハリスは語ります。「歌が生き続けるためには、いままで誰にも

その歌が歌われなかった場所で誰か新しい声によって歌われる必要がある」と。意味わからんけど、彼女の唄が上手いとか、下手とかではなくて、もっと超えたところにある「死」を通したメッセージが透けてくる気がします。

 

毎夜、私たちはベッドの横にあるキャンドルに火を灯す
でも時々、その炎は扱うのが難しいほどに大きくなってしまう

それは、あなたが言ったこと、あなたは知らねばならない
なぜなら、あなたは私の中に火をつけ燃やすから
あなたは、どんな動きをも見て私に従う、
どんな変化にも合わせながら

あなたの緑の瞳は、小さなことも見逃さない
その瞳は沈み行く太陽のように私を捕まえる
夜の炎のように私を温める、音もなく

あなたは私が聞くまで待っていた、
瞳の中の愛の灯のようにがまん強く
そして決して言葉を発しないか、偽ったことを語る

私は知らねばならない
あなたは海の遭難者になったようだった
私は、あなたがあからさまに私を見た時
その事をあなたの瞳の中に見た

あなたが笑い転げ、私にくってかかった最初の時に
私の心は全てが終わったことを知った
私たちがそれを知るのは簡単だった
厳しく、寂しい日々の年の後で

今、私たちの日々は、よき友達のシナリオのように過ぎ去る
あなたと私の。

Love Letter: An Hour with Kate Wolf

 

彼女が亡くなったのが1986年の12月ですから、1年半前のファンに送った「ラブレター」。マリン郡の森にある彼女のスタジオで録音された約1時間のインタビューです。白血病で体調はすぐれなかったのかも知れませんが、ライブ活動は続けていたようです。人生、生い立ち、音楽の表現に関する哲学を語っています。素顔の彼女の心が窺います。

1980年に発売されたアルバム「Close to You」

 

最初に歌われる曲が「Across The Great Divide」直訳すれば「大きな隔たり」とでもなるのでしょうか。これは、ロッキー山脈の別名で、巨大な分水嶺という意味です。ロッキーを源とする川は、太平洋、大西洋、北極海と、世界の大洋に向かってそれぞれ流れ出し、二度と出会うことはないのです。

1971年に協議離婚、子供を引き取って育てながらの地道なライブ活動やアルバム制作が実を結び、テレビ出演など仕事も増えてきて人気が出た時期、亡くなる6年前です。後のミュージシャンに大きな影響を与えただろう、とても良い曲です。彼女の死を惜しんだナンシー・グリフィスがこの歌をカバー「ロッキーを越えて」という曲名を付けて自分のアルバムに収録しています。

Kateを聴いていて感じるのですが、彼女の唄の最大の魅力は、さりげなく沁み出てくるような哀しみの表現なのだと思います。これが胸を打つのです。

Across The Great Divide

「ロッキーを越えて」ナンシー・グリフィスがカバーした曲名です。

 

私は今までまどろみの中を歩き続けてきた
羊の代わりに悩みの数を数えながら
月日がどこへ流れていくのか私は知らない
ただ振り返れば、そこから消え去っている

今までずっと篩(ふるい)にかけられてきた
埃だらけの本とすすけた紙の1枚1枚に
ページが語るのは昔見知った物語
ずっと前にあったこと

それは昨日の中へと消え去った
気づけば私はこの山の上
ここは川が流れを決める場所
大きな山脈にまたがっている

聞こえてくるのはフクロウの声
夜のとばりのように柔らかな
その問いかけに答えたけれど
声は闇の向こうに消え去った

声は昨日の中へと消え去った
気づけば私はこの山の上
ここは川が流れを決める場所
大きな山脈にまたがっている

今まで見た中で一番良い時間
それがやって来るのは
夜の端と夜明けの狭間
それは暗闇が遠ざかっていく時間

それは昨日の中へと消え去った
気づけば私はこの山の上
ここは川が流れを決める場所
大きな山脈にまたがっている

画質は非常に良くないのですが、ナンシー・グリフィスがコンサートで

​この曲を唄ってます。ゲストとしてエミルー・ハリスも参加。リードギターと

ベースを担当しているのは、ケイトのバンドメンバーだった人です。

 

1998年リリース、Kate Wolfを偲び、Various Artistsがカバーした珠玉のアルバム。

 

彼女が歌った宝石のような楽曲、アルバムの全曲がウルフの作詞作曲。いかに偉大なソングライターだったが分かります。ルシンダ・ウィリアムス

エミルー・ハリス、ナンシー・グリフィス、その他の著名なアーティストによる、力強いパフォーマンスが展開されてゆきます。興味深い事にこれらのアーティストの中には、実際にウルフを知っている人は少ないのです。彼女の音楽にとても感動し、まるで彼女が旧知の友達かのようです。一見シンプルなサウンドの曲に込められたウルフの私的な世界。愛と人生について、語るように唄われています。

アルバムの曲リストとミュージシャン

01 -【00:00】 Give Yourself To Love |キャシー・マティア
02 -【04:33】 These Times We're Living In |デイブ・アルヴィン
03 -【08:43】 Friend Of Mine |ナンシー・グリフィス
04 -【13:05】 Sweet Love | ジョン・ゴーカ
05 -【16:34】 Here In California |ルシンダ・ウィリアムス

06 -【21:50】  Like A River |ピーター・ローワン&ローワンブラザーズ
07 - 【24:59】  Carolina Pines |クリス・ウィリアムソン&トレット・フレ
08 -【29:14】 See Here, She Said |ユタ・フィリップス
09 -【33:15】 In China Or A Woman's Heart |ロザリー・ソレルズ
10 -【39:07】 Tequila And Me  |グレッグ・ブラウン&フェロン
11 -【43:38】 Back Roads |ニナ・ガーバー
12 -【47:52】 Cornflower Blue |エリック・ボーグル
13 -【52:14】 Love Still Remains |エミルー・ハリス
14 -【56:54】 Thinking About You |テリー・ガースウェイト

11曲目の美しいインストルメンタル曲は、ウルフが亡くなるまで

バンドでリードギターを弾いていた「ニナ・ガーバー」です。てっきり男性かと思っていましたが、女性だったんですね。

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